【578】 △ 幸田 真音 『日本国債 (上・下)』 (2000/11 講談社) ★★★ (× 幸田 真音 『代行返上 (2004/02 小学館) ★★)

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著者ならでは着眼点。現場の雰囲気が伝わるものの、小説としては...。

日本国債 上.jpg 日本国債下.jpg日本国債〈上〉〈下〉代行返上.jpg 『代行返上 (小学館文庫)

 国債の入札において、銀行や証券会社などの応札が足りなくなる、所謂「未達」という、日本経済の危機を象徴するような事態を描いた近未来経済小説。
 外資系金融機関で円債のトレーダーをしていたという著者ならでは着眼点で、国債の入札がどんな風に行われているかなどが、ディーリングの現場の雰囲気と併せて伝わってきて、参考になりました。

 ミステリや中年キャリアのラブロマンス的要素も入っていますが、その部分ではかなり物足りない感じがします。 
 キャリアウーマンの行動や心理の描写は、例えばパトリシア・コーンウェルの「検屍官」シリーズとか読んでしまうと、こっちは少女コミックのレベルに見えます。 
 これは、この作家の本書以降の作品にも見られる弱点かもしれないと...。
 つまり、経済や金融の専門的なテーマを扱うために、個々の人物の方がむしろ「背景」みたいになってしまって類型化するというパターンで、ビジネス書として読む分にはこれでもいいのかも知れませんが、一応小説なので、もう少し何とかしてほしい気もします。
 
 同じ著者の『代行返上』('04年/小学館)も、厚生年金基金の"代行返上"問題を扱っていて、テーマとして関心はあったものの、登場人物の描き方にさらに薄っぺらな感じがしました。

 本書は'00年11月の出版ですが、'02年9月の10年物国債の入札で、「未達」という事態があっさり起きてしまったことは周知の通りです。 
 でも、関係機関はともかく一般には、この小説ほどの大事態というふうには受け止められなかったのではないでしょうか。
 財務省も「交通事故みたいなもの」と言って平静を装っていましたが、さすがに「シンジケート団」を中心とする従来の限定された入札参加状況には問題を感じたのか、'03年から個人向け国債を売り出しました。

 【2003年文庫化[講談社文庫(上・下)]/2007年再文庫化[小学館文庫(上・下)]】

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